『楽園のカンヴァス』で、ふと思ったこと

【一応、ネタバレ注意です】

 

 

 

 

 『楽園のカンヴァス』の中で、悪役の立ち位置にいたキャラクターがエリク・エリクソンだ。作中でティムを罠にはめて追い込んだり、織絵を侮辱するような発言を行い自分の目的のために暗躍していた。しかし、そういった悪人的な立ち回りをしていた割には、このキャラクターに対してそれほど悪人という印象は持たなかった。その理由を考えたい。

 

 まず最初に思ったのは、「ただの根回しが得意なビジネスマンだ」という感想である。人を追い込むようなやり方を用いて利益を追求する強欲な面もあるが、ルールを勝手に破るような真似はしていないのである。事実、最終局面でジュリエットへ「夢をみた」の取り扱い権利が委任される場面では、無意味な悪あがきはせずその手続きを認めている。その前のティムへ取り扱い権利が委任される場面では反論こそしているが、あくまでも自分の意見に正当性が見込まれるがゆえの反論だった。今あるルールを無理やり壊して、目標を達成しようとするような悪質性はない。コンツが行っていたのは、自分が有利にゲームを進められるように様々な準備をすることだけである。そして、こういったことは優秀なビジネスマンであれば、多かれ少なかれ誰でもやっていることなのだろう。そういった準備の結果、ティムは悩むわけだが、もともとティムもやましさありきで夢を見に来ているので、コンツの戦略とティムの思惑で帳尻はあっているのではないだろうか。

 

 また、すべてが終わった後に何もなかったというのも、コンツの誠実性を示しているように思う。ティムの上司であるトムとあっているにも関わらず、その場はうまく誤魔化して何事もなく終わっている。あと、マニングは目当ての品を入手できなかったのだから心底怒っているだろうが、嫌がらせがなされた様子も特になかった。なんだかんだでコンツが火消しに回っていたんじゃないかと思う。結構真面目ですね。

 

 総じて、コンツは悪役だが悪人ではなかったのだと思う。本を読み終わったあとにそんなことをグダグダと考えていたので、今回はなんとなく文章に残してみることにした。「エリク・コンツは悪人なのか?」終わり。